フライス加工や旋盤加工といった従来の製造方法は除去加工であり、最終的に目的のものが残るまで、原材料から何かしらを除去していく手法です。「ダビデ像」の制作方法を当時のローマ法王から問われたミケランジェロが、「とても簡単なことです。大理石の塊からダビデ像でないものをすべて取り除いたのです」と答えた話は、世界的にも有名な例です。1986年、米国人Chuck Hullによって発明された光造形技術は、この従来の手法にとらわれない積層造形プロセスへの道を切り開きました。3Dプリントとも呼ばれるこの製造方法では、新しい材料を1層ずつ追加していき、1番上の層まで積み上げることで、造形物を完成させます。最初の3Dプリンターは1988年に発売されました。その後、様々な3Dプリント技術が開発され、急速に市場が拡大しています。

どの技術も基本は同じで、まずコンピューター上でCADモデルとして設計を行い、コンピューター制御のもと、液体や固体の材料から層を積み上げていきます。高度な硬化や溶解の工程を経ることで、各層がしっかりと結合され、安定した造形物が完成します。プラスチックを材料とする積層造形技術はすでに成熟しており、試作品製作、航空・医療分野における高性能ポリマーの量産、家庭用としても不可欠な技術となっています。一方、金属3Dプリント法の始動には、やや時間がかかりました。金属層の構造強度を十分に保証する技術が成熟し、金属3Dプリントが単なるプロトタイピングを超えた魅力的な製造方法となったのは、ごく最近のことです。それ以来、金属3Dプリントは、年間30パーセントもの成長率で市場シェアを拡大しています。これは驚くに値しません。というのも、この製造方法を使えば、自動車産業におけるトポロジー最適化による複雑な形状を持つ部品の製造など、最大限の耐久性、軽量化を実現した金属部品の製造も可能となるためです。超合金のような加工が困難な材料でも、金属3Dプリントを使えば確実に加工することができます。

現在、金属3Dプリンターには、LB-PBF(レーザ式粉体粉末床溶融結合法)とEB-PBF(電子ビーム式粉末床溶融結合法)の2つの方式が広く用いられています。いずれの方法でも、金属粉末を1層ずつ成形チャンバー内に積み上げていき、各層ごとにレーザーまたは電子ビームで溶かすことで、下の層と接合させます。

3Dプリントに使われる金属の多くは反応性が高く、特に酸素に強く反応するため、成形チャンバー内の条件を細かく指定して制御しなければ、個々の金属層が結合せず、大きな造形物を形成することはできません。LB-PBFでは成形チャンバー内を大気圧や過圧状態にするのに対し、EB-PBFでは成形チャンバー内を10-4mbar程度の安定した真空状態にする必要があります。また、電子ビームを発生させるいわゆる電子銃チャンバーも、必要な電子ビーム強度を得るには、真空かつ周囲から密閉された状態にしなければなりません。電子ビームは電子顕微鏡など多くのアプリケーションで重要な役割を果たしており、VATはその豊富な経験を、電子銃チャンバーの隔離に関するあらゆる問題に3Dプリント市場セクターマネージャーであるYiyuan Tangは説明します。例えば、09シリーズのVATバルブは、電子銃チャンバーポンプの隔離バルブに最適です。「非常に堅牢なこのバルブは、ウェッジデザインにより、バルブシールに堆積物が発生する恐れのあるプロセスに特に適しています。また、差圧が発生した場合にもバルブを開くことが可能です」と、Yiyuan Tangはこのシリーズの利点について説明します。またYiyuan Tangは続けて、「バルブシールの素材には様々なものがあり、例えばFFKM特殊エラストマーは、バルブディスクで200℃までの高い温度耐性があります」と話します。電子銃チャンバーと成形チャンバー間で電子ビームを遮断するには、01シリーズのVAT遮断バルブが最適です。Yiyuan Tangは、「このようなDN50 までのコンパクトなバルブは、漏れ率が10-9 mbar l/s 未満と非常に低く、設置深度が浅いことが特徴です」と強調します。

電子ビームが真空チャンバーに入り、そこで実際の製造プロセスが始まると、必然的にガスが放出されます。これが電子ビームの焦点のずれを引き起こす恐れがあります。そのため、電子ビームの散乱をできるだけ抑えられるよう、プロセス圧力を確実に制御する必要があるのです。「ガス流量を正確に指定する必要はないものの、チャンバー内のプロセス圧力が決定的なパラメータとなる真空アプリケーションでは、62.7シリーズのVATガス注入バルブが活躍します」と、Yiyuan Tangは話します。この高精度ガス注入バルブは、非常に広い圧力範囲で細かくガス量を制御できるうえ、これを正確に再現することもできるため、運転間隔が長くなる場合も変動を心配する必要がありません。「非常に広い制御範囲を持つ62.7バルブは、市場でも非常にユニークな存在です」と、Yiyuan Tangは胸を張って話します。

別の選択肢として、チャンバーと真空ポンプの間にVATシリーズ64.2バルブのようなコントロールバルブや、さらに優れた非常にコンパクトなVATシリーズ65.3の振り子バルブを使って、チャンバー圧を下流で調整する方法もあります。「VATでは豊富な製品を取り扱っており、それぞれのお客様に合った方法でご要望にお応えすることができます。3ポジションバルブによる粗調整から、フレキシブルなガス注入制御、バタフライバルブを使った下流制御にいたるまで、どんなことでも実現いたします!」

レーザーを使った金属3Dプリント法であるLB-PBFでは、成形チャンバー内を真空にする必要はありませんが、1bar程度の過圧状態の不活性ガス雰囲気が必要です。同時に、煙や不要なガスを逃がすために、チャンバー内の空気を常時交換する必要があります。「ここでも、チャンバー内の雰囲気を安定させなければ、最適な3Dプリントを行うことはできないのです」と、Yiyuan Tangは話します。また、「ガス流の上流側制御に最適なのが、またしても62.7バルブなのですが、今回の制御は圧力ではなく、様々な大気パラメータに依存します」と説明します。下流側の制御では、09シリーズのVATウェッジバルブ(FFKMシール付き)が再び登場し、ここでは成形チャンバーとブロワーの間の耐熱性隔離バルブとして、広範囲の堆積を効果的に防止します。

EB-PBF、LB-PBFにかかわらず、成形チャンバーには、プリント工程に機械的に介入するため、または完成した造形物を取り出す際の、安全なアクセス方法が必要です。そこで、ガラスコーティングなどに使用される06シリーズのVATドアが威力を発揮します。VATドアの大きな利点は、ほぼどんな寸法や形状の開口部にも対応できることです。正方形、長方形、円形、楕円形など、VATはお客様のあらゆるご要望にお応えします。「ドアをチャンバーのデザインにぴったり合わせることで、チャンバーの容積を増やさずに、システムを大幅にコンパクトにできます」と、Yiyuan Tangは話します。

コンパクトといえば、LB-PBFのようなプロセスでは様々な種類のバルブや、場合によってはセンサーも必要となり、最善の仕上がりを得るには、これらを極めて効率的に連携させる必要があります。従来は、どのバルブソリューションも成形チャンバーにフランジ接続されていました。しかし、バルブとバルブの機能を合わせ、指定の接続を単一のハウジング内に備えた、バルブユニットにすることも可能です。このようなバルブユニットは、目的のアプリケーションに正確に適合させることができるため、例えば、プリントする造形物のサイズを最大限大きくできます。いわゆるバルブインサートも、個々のバルブ機能が成形チャンバーに直接組み込まれているため(バルブハウジングを省略)、構造体積とシール面積が大幅に削減されます。しかし、このような一体型ソリューションの強みを最大限に生かすためには、プロセスチャンバーの設計時のできるだけ早い段階で、適切な計画を立てる必要があります。なぜなら、複数の製造会社にまたがって生産を行うと、時間と物流の面で非常にコストがかかるからです。VATのコンプリートソリューションは、組み立て時間や必要スペースの削減、倉庫の削減、全体的な柔軟性の向上などにより、コスト面で魅力的な、生産の簡素化を実現します。Yiyuan Tangは「これにより、お客様は組み立て、品質管理、サプライヤー管理に必要となる貴重なリソースを節約できます」と説明したうえで、「特に小ロット生産の場合、これは非常に興味深い選択肢となるでしょう」と話します。もちろん、VATモジュールにレーザー光源やポンプなどのコンポーネントを個別に追加することも可能です。

安定した真空状態は、金属3Dプリントそのものだけでなく、金属3Dプリントに必要な金属粉末の製造においても重要な役割を担っています。最終的に、プリント品を理想的な品質に仕上げるためには、粉末の粒の組成、大きさ、(球状の)形状を可能な限り均質にする必要があります。「粒径の異なる金属粉末を使用すると、粉末の層を均一にまとめることができません」と、Yiyuan Tangはこの問題について説明します。このような均質な粉末粒子をつくる技術として実績があるのが、不活性ガスアトマイズを用いた真空誘導溶解です。このプロセスでは、まず溶けた金属が不活性ガスで満たされた高圧の押出機に通され、押出機から雪を投げるように霧状に噴霧されます。その後真空容器内で冷却されると、噴霧された液滴が球状の粉末に固化します。なお、液滴の大きさや質は押出機出口の圧力差に大きく依存するため、下流の真空チャンバー内の状態を極めて精密に管理する必要があります。「高温で粒子の飛散もあるため、使用する真空バルブには大きな負担がかかります」と、Yiyuan Tangは指摘します。

実際にこのアプリケーション(真空基底圧 約10-4 mbar)では、17.2 シリーズの VAT バルブが、製造した粉末を取り出す際など、装置内の様々なエリアを効果的に分離するバルブとして真価を発揮しています。ゲートが開くとバルブ開口部に移動する保護リングが、バルブ内部とその機械部品を粉塵からしっかりと保護します。DN400 より大きなバルブ開口部には、VATバルブシリーズ 19.0 を代替品として使用することもできます。Yiyuan TangはVATバルブのもう1つのメリットとして、「どちらのバルブタイプでも、オプションでフランジに水冷システムがつけられます」と話します。ここでも様々なシール材を使用すれば、バルブディスクで最大200℃まで、バルブの温度範囲を柔軟に調整できます。さらに高い温度を求める方は、グリースフリーのVATバルブ10.8シリーズを使えば、最大250℃まで対応可能です。このように、VATソリューションはどんなに高温のアプリケーションにも対応し、最高の生産品質と安定性を実現します。