アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、従来の真空センサーの欠点を解消する量子に基づいた真空計、冷原子真空標準(CAVS)装置を開発しました。耐久性の高いVATRING技術を採用したVATオールメタル真空バルブは、この革新的なCAVS装置が超高真空・極高真空製品プロセスにおいて必要とする、高い精度と信頼性を提供しています。

VATのリージョナルセールスマネージャーであるJoshua LeBeauは、「NISTは米国で最も古い物理科学研究所の1つでもありますが、あまり話題になることはありません」と言います。「最先端の測定インフラは、未来のスマートグリッド、先端ナノ材料、半導体チップなどに必要な技術革新に不可欠だというのに、驚きですね」。

1901年に設立され、現在は米国商務省の一部である国立標準技術研究所(NIST)は、測定、標準、法定計量に関する重要なサービスを提供しています。NISTのガイドラインとサービスにより、測定のトレーサビリティの徹底と品質保証が可能となり、研究および産業で使用される文書規格と規制慣行を統一することができます。

最近NISTの科学者によって、幅広い真空チャンバーで使用できるよう小型化した真空計が設計されました。この真空計は、量子のSI(国際単位系)基準にも適合しており、校正を必要としません。また自然界の基本定数に依存して正しい量あるいは「全くない」ということを明らかにするもので、不確かさの数値は測定用途に適しています。この量子ベースの真空計、冷原子真空標準(CAVS)装置は、従来の真空センサーの欠点の多くを解消し、測定の不確かさを大幅に低減することができます。

NISTの真空センサーの設計の模式図。(クレジット:Daniel Barker/NIST)

CAVSは、精密測定を行う真空チャンバーに直接設置されます。その中核となるのが、約100万個の超低温アルカリ原子が入った「原子トラップ」で、このトラップはレーザー光で励起されると蛍光を発します。トラップされた原子は、超高真空(10-6 Pa以下)または極高真空(10-10 Pa以下)に排気された後に残る、真空容器内の元素(主に水素分子)と相互作用します。

相互作用のたびにアルカリ原子の数は減少し、発光する蛍光の量が減少します。この減衰をセンサーが記録します。光の減衰が早いほど、真空容器内に残っている元素の数が多くなります。その結果、蛍光の強さが圧力の正確な指標となるのです。

科学や産業のさまざまな分野で求められる超高真空および極高真空環境は、特定の複雑な調査や生産工程を制御しながら実行できるよう、正確さや一定の条件を満たすことがますます必要とされています。そのためには、精密な圧力測定が欠かせません。

「このような高真空環境における従来の測定技術は、一般的に電離真空計に依存しています。電離真空計は定期的な再校正が必要なうえ、精度は±20%で、現在のSI規格には対応していません」と、VAT米国ナショナルセールスマネージャーのJoshua LeBeauは説明します。「これに対し、CAVSは校正が不要なうえ、極高真空アプリケーションで+1%前後という、常に高い精度の測定値を得ることができます」。

CAVSを開発したNISTの研究者は、VATのバルブオールメタルを設計に取り入れました。バルブの耐久性と精度、そして採用されているVATRING技術により、CAVSは再現可能な信頼性で、超高真空・極高真空の圧力条件を測定できるようになりました。

CAVSは標準的な実験室サイズですが、NISTはフォトニクスを活用してこれを扱いやすいパッケージに縮小し、電離真空計の代替品とすることを目指しています。このCAVSのポータブル版であるp-CAVSは、現在開発中です。その中心部にあるのが、単一の入射ビームを受け取り、原子のトラップに必要となるさらに 3 つのビームを作り出す、フォトニック格子チップです (図 2)。また、このチップには原子開口部があり、その後ろにアルカリ源が配置されています。この開口部により入射ビームが通過し、アルカリ源の原子とより長く相互作用することで、本来であればトラップされなかった原子をあらかじめ減速させることができます。この重要な技術革新により、真空測定に理想的なセンサー原子であるLi原子のトラップが可能となりました。

NISTによると、次世代の冷原子ベースのセンサーは、加速度、回転、磁場、電場、黒体放射、温度、真空、さらには時間の測定にも影響を与えるもので、計測学に革命をもたらすことが期待されています。NISTは、この技術を実用化すること、そして低温原子を用いた計測の新たな未来の構築に取り組んでいます。

p-CAVS第一世代のグレーティングMOTチップ。(クレジット:Curt Suplee/NIST

ビルトインの柔軟性

オールメタル真空バルブは、通常、ポペットとシートの両方のシール面にステンレス鋼が使用されています。この「ハード・オン・ハード」のシールは、必然的に変形を引き起こすため、閉サイクルが制限され、頻繁に交換が必要となります。VATオールメタルバルブに採用されているVATRING技術の場合、バルブディスクとバルブシートの間にステンレス鋼製のリングが挿入されており、その形状により、通常の「ハード・オン・ハード」シールシステムにはないダイナミックなシール性能を実現しています。その結果、この技術によって高い閉サイクル数を実現することができます。

「VATのコーティング・科学機器・研究セクターマネージャーであるMartin Greuterは、『ハード・オン・ハード』シールのバルブソリューションは、高エネルギー物理学アプリケーションの分野だけでなく、製造プロセスにおける真空の品質に対する需要の高まりとともに、従来の産業アプリケーションにもどんどん浸透しています」と話します。「ダイナミックシール技術の総合的なノウハウを持つVATは、この分野のあらゆる要件に対応できる理想的なパートナーです」。